『熾火』東直己(角川春樹事務所)

最近読んだ本の感想でもまとめて……と思ったんだけど。
東直己*1の新作、『熾火』がすごかったので、その話だけ。

虐待の疵を残す少女は、いったい何を見たのか。警察が隠蔽しようとする戦慄の犯罪者とは―― 私立探偵・畝原シリーズ最新作。書き下ろし長篇ハードボイルド

実は、東直己のここ最近の作品、『ススキノ、ハーフボイルド』『探偵は吹雪の果てに』『駆けてきた少女』は、個人的には楽しめなかったのでした。
それでも、『熾火』を発売日*2に何軒も本屋を回って探したのは、畝原シリーズなら面白いはず……と思ったから。
買って帰って、開いて、気が付いたら読み終えてました。


東直己には、札幌はススキノを舞台にした探偵物が2シリーズあって、便利屋シリーズ*3の主人公「俺」が無頼漢というかアウトローなのに対し、畝原シリーズの主人公、畝原(うねはら)は正統派の探偵。
元新聞記者だった畝原は、警察の暗部に近すぎたために罠にはめられ、幼女淫行の冤罪を受けて職と名誉を失なった男。
事件がもとで妻と別れ、一人娘を養いながら探偵をしている……という、まさに正統派の私立探偵です。


畝原シリーズは『待っていた女・渇き』『流れる砂』『悲鳴』*4に続く4作目。
これまで、一貫して警察を始めとする権力と対決してきた、シリーズのクライマックスと言える内容です。
……と、まあ、慣れない紹介はこんな感じ。
この手のハードボイルドものが好きなら、畝原シリーズの上記3冊は非常におすすめです。
文庫落ちしてるしね。


んで、いつもの個人的な感想つうか呟き。
東直己でよく話題になるのは、生活感だったり、喋り言葉のうまさだったり、ワイズクラック*5の丁寧さだったり、事件の背景の設定だったりする印象ですが、俺としてはモチベーションの持って行き方が一番気に入っています。
ぶっちゃけ、N◎VAのシナリオに役立ちますよ、と(笑)


当たり前だけど、探偵小説の主人公が(そしてN◎VAのフェイトが)、「依頼を受け、淡々と最後まで調べて終わり」なんてお話はありません。*6
依頼で、しかも往々にして、つまらなかったり、不本意だったりする依頼で調べ始めた事件が、どうやって「自分の事件」に、「自分の物語」になるのか。
その点で、東直己の作品、特に畝原シリーズは、どれも優れていると思います。


そういや昔、ススキノの便利屋シリーズ『探偵はひとりぼっち』のストーリーをまるまるパクってN◎VAのシナリオを作ったことがありました(笑)
ストーリーラインていうか、構造を真似たんだっけな。
ストリートで娼婦が殺されて、フェイトがそれを調べると、なんの変哲もない事件のはずなのに、誰も口を開かない。
どうやら娼婦は司政官・天津晃一郎*7の元情夫で、みなN◎VA軍を恐れて協力しない、と。そんな感じのシナリオ。
依頼人は、『かなしみのクリスチアーネ』クリスチアーネ・F(読売新聞社・絶版)の登場人物*8から持ってきて、アクトタイトルも「かなしみのクリスチアーネ」。


性格が悪くて、金に汚い、ぱっと見10代に“見えないこともない”年増の娼婦が死んで。
依頼人は、あきらかにどこかからパクってきた金を差し出すおつむの弱いジャンキーで、「彼女は天使だ。愛していたんだ」と言う。
そんな依頼なのに、もうアホみたいに強いN◎VA軍の殺し屋とかを差し向けられちゃう。
「どうしてそんなくだらない依頼を果たそうとするのか」と、フェイトに尋ねる瞬間が、最高に面白かったなぁ。
ハチスさんとかともやったなぁ……懐かしい。
もともと2〜3人用に作ったアクトだったこともあって、緋と1on1でやったりもしました。
確かまだ緋が学生で、平日の昼間に男2人でカラオケボックスに入ってやった……怪しい(笑)
でも、あのアクトも楽しかったなぁ。
確かあの時は殺し屋役が夜叉*9で、緋がヒーヒー言ってたのを覚えてます。


……で、だ。
ここまで書いて思ったけど、今作ってるシナリオ*10も、同じような話なのね(笑)
前にハンドアウトだけ載せたアクトを、ちょこちょこ作ってるんだけど*11
アクトトレーラーはこんな感じ。

いつもと同じ一日だった。
いつもと同じように、路地裏に死体が転がっていた。
死んだのは娼婦で、殺したのはヤクザ。
別に珍しくもない、2秒に一度はある話だ。
災厄の都市の、いつもと同じ一日。
けれど、その日は雨だった。


ひどく冷たい雨で――だからかもしれない
ひどく寂しい雨で――だからかもしれない
復讐なんて、その程度の理由で始まるのだろう。

 
娼婦が死んだ。優しい女だった。
別に珍しくもない、2秒に一度はある話だ。
けれど、その日は雨で、
ロームの心も、少しだけウェットになったのかもしれない。


トーキョーN◎VA The Detonation
「Raining Chrome


雨の中、かくて運命の扉は開かれる。

もう、全然変わってないのね(笑) やっぱり3人用だし。
6年経っても、やりたいことは変わらないんだなぁ、と思うと、なんだかちょっと照れくさいっすね。*12

*1:ちなみに「直巳」ではなく「直己」。昔間違えて、「検索にかからないなぁ」とか思ってました

*2:金曜だと思ったら土曜だった様子。さんざん歩き回ってしまいました

*3:『探偵はバーにいる』からの一連のシリーズ。5作目の『探偵は吹雪の果てに』まで、ハヤカワJAで文庫になっています

*4:3冊ともハルキ文庫で出ています。オススメ

*5:へらず口

*6:いや、あるのかもしれないけど俺は知らない

*7:当時(笑)

*8:ぱっと本が出てこないので名前がわかんないや。クリスチアーネたちの常連客で、おとなしい彼

*9:回によっては俺のキャストだったりした(笑)

*10:プライベート用のシナリオ

*11:なんか5月中に完成させたいとか書いてるな俺……(笑) 今リサーチの半分……か、1/3くらい

*12:でも細かい言い回しとかを、若い子にもらったシナリオからパクる俺(笑) 貪欲!!