イベント向きのシナリオ

イベント向きのシナリオ

 イベント、というのはこの場合主に、プレイヤーが事前に特定できない&制限時間が設定されている、という意味で使っています。
 先に結論を書くと、「シナリオの焦点が明確で」「序盤*1に卓全体が盛り上がるシーンのある」シナリオがイベント向きだと個人的に考えています。それを端的に表わす概念が「探偵に面白い依頼が来るシナリオ」というものです。
 もちろん、他にもバリエーションは無数にあるし、端的に言えばプレイヤーが楽しめるシナリオであればなんでもいいわけです。「イベント向けのシナリオはこうでなければならない」という主旨ではありません。イベント用にプレイしやすいシナリオの、いくつもあるパターンのうちひとつ、程度の話*2

シナリオの分類

 自分でシナリオ──ここからは『トーキョーN◎VA The Detonation』に限定します──を作る場合、大きくは「身内向け」と「イベント向け」で考えています*3。ざっくり分けると、身内向けは、「経験点を持っててルールと世界観に詳しいプレイヤーと、4〜6時間くらいかけて遊ぶ」ことを想定してます。イベント用の場合は、「不特定のプレイヤーと、キャラ作成こみで3〜4時間くらいで遊ぶ」になります*4
 項目に分けると「プレイ時間」「想定するルーラー」「想定するプレイヤー」と、なります。例を出すと、

  • GFコンN◎VA卓
    • プレイ時間:3時間
    • 想定するプレイヤー:初めて〜1割、数回・たまに〜4割、よく遊ぶ・遊んだ〜5割*5
    • 想定するルーラー:自分

 てな感じ。これに、商品展開*6や自分のスケジュール*7などなどを考えて調整します。
 これがJGCであればシステム未経験者の割合をもっと多く見積もって、世界観を把握していないと楽しめないネタなんかはできるだけ避けるようにします。JGCの場合は特に、自分以外のRLが多いので、「ちゃんと書く」ようにします。
 で、ちょっと前置きが長くなったんですが、イベント用のシナリオの話。

小さな恋のメロディ

 JGC2003N◎VA卓でプレイしたシナリオ。『TND』発売時のJGCだったので、まったく予備知識のないプレイヤーも想定してシンプルな構成。その上で、『TND』での大きなトピックであるAIネタを絡めよう、という主旨*8。執筆は天才・田中岳人。プロットだけ俺が作って書いてもらったのですが、これが非常によくできていて、ある意味、イベント用シナリオの教科書のようなシナリオになっています。
 最初のシーンはこういうシーンです。

 『フェイト』の事務所。DAKからは恐ろしいほどくだらない昼ドラが流れている。
大根女優「夫が……浮気しているんです」
 そこでDAKが来客を告げる。
 ドアを開けると、そこには7歳くらいの女の子。
「探偵さんですね」
 女の子は真剣な顔で口を開く。
「夫が……浮気しているんです」

 ここから、AIと少女の恋や、息子を失った研究者の悲しいエピソード、企業の陰謀と犯罪、などにストーリーは展開していくわけですが、とにかくこのシナリオのキモは、アクトの一番最初にあるこのシーンです……と、当時、RL向けに書いたTIPSにも書いてありました。さすが俺、いいこと言うなぁ!
 「このシーンがシナリオのキモである」とRLが意識するのは重要なことです。なぜなら、そう意識したRLは、「プレイヤー全員に」聞かせよう、とするからです*9。一番最初のシーンで、シナリオのメインとなるストーリーに惹きつけることができれば、プレイヤーはその後、自分が登場していないシーンでも集中して聞こうとします。これは、たくさんのテーブルで一斉にセッションを行なう大規模イベントでは非常にいいことです。
 また、このシーンと、シナリオタイトル「小さな恋のメロディ」により、このシナリオにおけるストーリーの中心が、この幼いカップルであることが明確に伝わります。このおかげで、複数の導入と立場の交錯するシナリオにおいても、短時間かつスムーズにストーリーの認識が行なえます。

印象的な敵

 「小さな恋のメロディ」では、俺は最初のシーンの描写と、後の簡単なプロットだけ書いて岳人先生に執筆をお願いしていますが、実際にそのシナリオをプレイして感心したのが、岳人先生の書く敵ゲストの面白さです。
 この時の敵は、テラウェアの非合法工作部隊であるナンバーズの“88(エイティエイト)”、双子の工作員で、透過で攻撃をすり抜ける……あの、ぶっちゃけ「マトリックス・リローデッド」のツインズなんですが! ハハハ。
 で、岳人先生といえば、古くからのブレカナファンには「黒風再来」、メカザムエルを生み出した人物……といえばおわかりのように、とにかく面白いゲストに定評のあるライターです*10
 この88、双子なのですが、互いに話す時に、必ず相手の名前を呼びます。「やっとお出ましだぜステッフェン」「ちょろそうだなデイヴィット」こんな感じ。
 これが、読んだ時にはそれほど気にしてなかったのですが、実際にRLとしてやってみると、ものすごく受ける。会話のフォーマットが決まっているので、アドリブでのセリフも出やすいし、一瞬でゲストが印象づけられるのです。すごいぞ岳人さん!

依頼シリーズ

 「つまり面白い依頼をすればいいんだよ!」と言っても、そんな簡単に思いついたら世話ないわ! というのが人情であります。そんな時、特にフェイトの場合は探偵小説、それも短編集が参考になると思います。
 JGC2008のシナリオ、「災厄都市(ハザードシティ)の女」では……タイトルからもうわかる人もいるかな、『ホログラム街の女』(ハヤカワSF/F.ポール・ウィルソン)を参考にしました。これはSFハードボイルドの連作中短編集(全3話)で、今回は1話目を参考にしましたが、3話ともに見所があって、N◎VAの参考にオススメ。
 『ホログラム街の女』1話の導入は、簡単にいうと、「クローンが奴隷扱いされている世界で、探偵のもとにクローンの娼婦がやってきて、恋人探しを依頼する」というものです。で、この恋人が「キミがクローンだって関係ないさ! 結婚して太陽系外に移住しよう!*11」とか言うみえみえのチンピラで……、というお話。
 これはN◎VAに応用しやすい! というわけで、「クローン→未登録市民」「結婚して太陽系外へ移住→結婚して日本で暮らす」に変換しました。

ホログラム街の女 (ハヤカワ文庫SF)

ホログラム街の女 (ハヤカワ文庫SF)

 他に考えたアイデアとしては「7歳くらいの子ども*12からの、『自分は連続殺人犯なのだが警察が自首を信用しないので証拠を探してくれ』という依頼」「田舎から来たおばあちゃんからの、『N◎VAでエリートになっているという孫を探して欲しい』という依頼*13」、「依頼人が『自分を殺した犯人を捜してください』という依頼」などがあります。

まとめ

 「フェイトに面白い依頼が来る」というのはあくまで一例で、つまりはオープニングでひとつは、卓が盛り上がる──プレイヤー全員が反応するフックを入れたい、ということです。逆に、全シーンに入れ込むと、みんな自分のシーン・自分のフックだけに気を取られてしまい、他の人のシーンに集中できないということもあります。といっても、俺も身内用シナリオ、特に3〜4人用の少人数アクトではよくやります。プレイ環境、スタイルによってどんなシナリオが盛り上がるかも変わるし、そもそも良い手法はひとつではない*14のです。
 これはあくまで『TND』で、短時間のセッション、かつ俺個人がお気に入りの手法──「の、ひとつ」の話です。


 探偵以外の話でいえば、クリスマス前後のGFコンで何回かプレイした「サンタシリーズ」なんかも、自分的に「イベント向け」を意識した作りです。
 シリーズ、といっても2本くらいですが。共通するのは、PC1のハイランダーが「クリスマスイヴの夜に、真っ赤な服と白い大きな袋を持って記憶喪失で倒れている。覚えているのはシナリオコネである子どもの名前だけ。彼(彼女)に何かを届けなければいけないような……」というハンドアウト。ぶっちゃけ「サンタクロースはPC1さんだったんだ!」シリーズです。共通して、「記憶喪失の怪しい人物(ハイランダー)を、クリスマスだというのに駆り出されたイヌ(警官)が拾う」ところから始まります。ここのフックだけで十分面白いので、シナリオ自体はシンプルなものに。
 こんな感じで、1ネタでバシッと“掴める”シナリオはイベント向きだと思います。季節ネタはマジオススメ。

おまけ

 えー、そもそもは知り合いが何人か、「身内じゃない人とやる定例会/イベントでRLやるんだけどどんなシナリオがいいのかなぁ」と言っているのを見て、自分なりにイベント用シナリオの作り方、を解説してみよう、と思ったのですが。ちょっと状況を限定しすぎててあんまり役に立たない気がした!
 特に、プレアクトを当日やるのか、事前に掲示板などでやるのか、とかは、やれることもずいぶん違うと思います。トレーラーやハンドアウトも、「掲示板で読む」のか、「プリントアウトを読みながら声で聞く」のか、「声で聞く」だけなのかで、認識できる情報量が大きく変わってくるため、適切な長さも変わってくるからです。
 『ストレイライト』のRL講座なんかは、とりあえず必要なことは一通り書こう、ということでマスタリング全般を網羅しています。個々の環境はバリエーションがあるので、一般的な手法がメインですが、環境限定だけど使えると役に立つ話、とか思いついたら書きたいなぁ、と思います。

*1:オープニング。可能なら1シーン目

*2:たとえばエンゼルギアの「幸せで、あるように」はイベント用シナリオとしてはけっこう変則ですが、自分で「このシナリオは超面白い」と思ったので、JGCで使用していますし、大量のゲストが登場し序盤はキャストが対立する「In The BOX」もいくつかのイベントでプレイしています

*3:もうひとつ、「商品向け」というのがありますが、話が複雑になるので見送り

*4:また実際には、中間に「ルール詳しくない知り合いと遊ぶ用」とか、「ルールに詳しい人が集まるイベントでやる用」とか色々あります

*5:まあ、正確なものではないです。ざっくりこんな感じ、程度

*6:たとえばリプレイが発売された直後は、未経験や、昔ちょっと遊んだ〜みたいな人が増える

*7:やばそうなら、他のRLにも読めるような形式でシナリオを提出する

*8:『R』期最後のシナリオが、「電脳聖母事件」を扱ったものであるため

*9:常にそういう心持ちでいよう、というのとはまた別の話

*10:ちなみに真面目な世界設定とかも上手いです。いろんなゲームでシナリオやワールドパートを書かれています。年齢的には年下なんですが、ライター仲間はみんな「岳人さん」あるいは「岳人先生」と敬称をつけます。怪人物

*11:環境破壊で金持ちは地球から脱出する、みたいな設定だったと思う……ここちょっとうろおぼえ

*12:またか!

*13:孫は盛大に成功したエグゼクになったと吹かしているがもちろん嘘

*14:どころか矛盾した手法がそれぞれ“良い”ものであったりする